<論文>
                      子宮筋腫と血液循環療法
                                          血液循環療法院・たかお   高尾 荘二

はじめに

子宮筋腫は、日本産科婦人科学会誌での解説1)では次のように記述されている。すなわち、子宮筋腫は子宮筋層を構成する平滑筋に発生する良性の腫瘍で、婦人科腫瘍性疾患の中で最も高頻度なものであり、30歳以上の女性の20~30%、顕微鏡的なものを含めると約75%にみられるとされる。そのほとんどが子宮体部の子宮筋の中に発生し、周囲の正常子宮筋を圧排するように増殖し、その増殖には卵巣性ステロイドホルモンが関与しており、エストロゲンおよびプロゲステロンのレセプターを有する。初経前にみられることはなく、性成熟期には筋腫が増大する可能性を考慮する必要があるが、閉経後は一般的に縮小する。また、筋腫は約95%が子宮体部から、約5%が子宮頚部から発生し、まれに子宮膣部からも発生する。そして、その発育方向によって、次の3つに分類される。
●粘膜下筋腫:子宮内膜の直下に発生し、子宮腔内に向けて発育するもの
●筋層内筋腫:子宮筋層内に発生、発育するもの
●漿膜下筋腫:子宮漿膜直下に発生、発育するもの。
この3つの中で最も高頻度に認められるのは筋層内筋腫である。また筋腫は単発性のものよりも多発性のものが多く(60%~70%)、上記3種類の筋腫が複数種合併して多発することが多いとされる。
以上の解説でみるように子宮筋腫は良性の腫瘍なので、それ自体が直接生命を脅かすものでない。しかし、放置すると10kgを超える大きさになることもあり、不妊、不正出血などの種々の障害をもたらすこともあるといわれている。また、子宮筋腫は女性ホルモンとの関連が深く、女性ホルモンにより増大し、閉経後には縮小する。
今回、子宮筋腫に血液循環療法を施す機会を得て、疾患の治癒には至らなかったものの、筋腫摘出手術に際して副次的効果を有したと思われる症例(詳細は本号の症例報告を参照)を経験したので、「血液循環療法症例集」に収載された過去の症例について調査・検証し、若干の考察を試みた。

調査方法

血液循環療法による子宮筋腫の治療例について、手元に保有する血液循環【症例集】(「症例研究」第1~8号より抜粋)並びに「症例研究」第7~10号および「症例研究」第13~19号の中から子宮筋腫の症例を抜き出して症例一覧を作成し、分析・検討の対象とした。

調査結果

調査の結果を表1に〈症例一覧1〉および〈症例一覧2〉として示した。症例は計7例あり、施術の時期は以下に示すとおりである。
平成7年     1例
平成12年    1例
平成13年    1例
平成14年    1例
平成16年    2例
平成18年    1例
年齢別には、40歳代5例、50歳代2例であり、40歳未満および60歳以上での症例は皆無であった。ただし、50歳代の2例についても、1例は子宮筋腫と診断されたのは39歳のときであり、他の1例も発症時の年齢は不明であるが、妊娠時に子宮筋腫と診断され、そのまま経過したものである。
施術回数は6~66回で、平均34回であるが、50~66回が3例と最も多く、次いで13~14回が2例、6回と24回とがそれぞれ1例ずつとなっている。
対象者の体質として、「冷え症」が7例のうち6例に認められた。
治療結果については、残念ながら子宮筋腫が消失したとの医療機関での確定診断を確認した症例はなかった。しかしながら、硬結としての子宮筋腫は腹部押圧によりほとんどの症例で軟化・縮小し、また押圧時に硬結が動くようになるなどの変化を示した。

考察

今回検討した子宮筋腫への血液循環療法による治療例7症例をみると、患者背景として、1例を除いて共通して「冷え症」がみられる。例外の1例についても、軽症の場合には患者自身が冷え症の自覚のないことも考えられ、問診では確認できなかったが、実際には当該患者が冷え症の体質を有していた可能性も否定できない。ここから、子宮筋腫の発症と「冷え症」との間に大きな関連性があることが強く示唆される。
「冷え症」については、金沢医科大学のホームページ中のサイト2)に、西洋医学の考え方と東洋医学(漢方)のとらえ方が対比して記載されており、以下のように要約される。
西洋医学でいう「冷え症」は、自律神経の失調(交感神経と副交感神経の調整が乱れ、血管の拡張や収縮がうまくできなくなり血液循環が悪くなる)、低血圧、貧血などにより、手足が冷たくなったり、すぐにおなかが痛くなったり、下痢になったりという症状を呈するものととらえられている。
一方漢方では、冷え症は気(人体エネルギー)の失調によってもたらされると考えられ、気の失調に伴って血〈けつ〉(血液)の失調(つまり血液循環の障害)が起こり、手先、足先、鼻先、耳たぶなどが冷たく感じられる。気血が失調すると水〈すい〉(水分)も失調し、冷え症の随伴症状としての足のむくみ、頻尿、膀胱炎、めまいなどが起こる。
なお、「冷え症」という言葉は、手足が冷たくて眠れない、冷房に当たるとすぐに体調を崩すなどの症状を指し、西洋医学では病気ととらえず治療の対象としていないが、漢方医学では治療の対象としている。また、体が冷えやすい体質のことを総称して「冷え性」といい、「冷え症」は「冷え性」の中の一つの症状としてとらえられる。漢方医学では、「冷え性」は「冷え症」の他に月経痛、月経不順、頭痛などを引き起こす原因となると考えられている。
このようにみてくると、西洋医学でも東洋医学でも、血液循環障害を「冷え症」の根本原因としてとらえていることがわかる。そして、子宮筋腫の7症例のほとんどに患者背景として「冷え症」が存在することから、冷え症の解消、すなわち血液循環の改善が、子宮筋腫の治癒につながる可能性が期待される。
東洋医学では、瘀血〈おけつ〉(血液が停滞すること、すなわち血液循環の障害)が子宮筋腫の原因であるといわれてきた。しかし、西洋医学では、卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲンが子宮筋腫を増大させることは確実とされているものの、その発症のメカニズムについては明らかにされていない。最近の仮説について言及しているサイト3)によると、子宮内膜-筋層移行部に子宮幹細胞があり、毎月繰り返される月経周期時に子宮筋層では血液の虚血-再灌流が繰り返され、これに伴って発生する活性酸素が遺伝子異常を引き起こし、筋腫細胞を発生させると考えられているが、まだ確定はされていない。
また、子宮筋層の収縮による局所の低酸素状態が子宮平滑筋細胞のDNA障害をもたらし筋腫を発生させるという仮説4)も提唱されている。
ここで注目すべきは、子宮筋腫の発生について、東洋医学のみならず西洋医学においても、局所的な低酸素状態、すなわち子宮での血液循環不良が関与しているとしていることである。
このことから、腹部押圧による血液循環の改善は、冷え症を解消するばかりでなく、子宮筋腫発症の予防に効果を有すると考えられる。さらに、直接子宮筋腫を縮小させる有効な手段となり得ることが示唆される。
筋腫により損傷を受けた筋腫境界部の子宮筋細胞が、血液循環療法による血流の改善で酸素が十分に供給されると、筋再生・増殖が促進され筋腫を徐々に退縮させていくと考えられるからである。筋細胞の再生は、筋線維の中に存在し普段休眠状態にある単核細胞の筋衛星細胞が、筋損傷時などに活性化され筋芽細胞に分化し、筋管細胞、筋細胞へと成熟していくことによってなされる5)。この筋衛星細胞の活性化が酸素によって促進されることが、スポーツ界で使われるようになってきた高気圧酸素療法の研究などによって知られている。
一方、子宮筋腫の方は酸素が存在する環境下では新たな筋腫の発生は抑えられ、周囲の筋細胞の再生・増殖によって次第に縮小せざるを得ない状態となるのではないかと考えられる。
しかしながら、以上は血液循環療法が子宮筋腫の治療に効果を発揮する機序に関しての単なる私見に過ぎず、実際は、筋腫の退縮には血中の酸素以外にも、免疫細胞などの種々の因子が関与し連動しているものと考えられる。が、現時点ではそのメカニズムについて報告した論文はみあたらない。
また、血液循環療法による子宮筋腫の治療は、筋腫の発生部位や大きさなどにより、治療効果、筋腫退縮に必要な施術回数などが種々異なってくることが推察される。すなわち、筋腫が子宮の外側に近い漿膜下筋腫や筋層内筋腫でも外側に近い部位の筋腫では比較的効果が得られやすいが、子宮の内部に近い部位での筋腫は手技による圧が届きにくく、効果を得にくいと考えられる。また、当然ながら筋腫が大きいほど、必要な施術回数も多くなると推定される。特に、子宮粘膜直下に発生し子宮内部に向かって発育した大きな筋腫は、子宮筋層を介してしか圧が届かず、根気強く長期に渡る施術を施行しても、筋腫の完全な退縮には困難を伴うことが予想される。

まとめ

血液循環療法症例集により、子宮筋腫に対する過去の施術症例を収集し検証した結果、子宮筋腫の患者背景に冷え症の存在することを確認した。子宮筋腫の発症の要因としてあげられている子宮における局所的な血液循環不良と併せて考えると、子宮筋腫に対して血液循環療法により一定の予防・治療効果が得られることが示唆された。

引用文献
1) 鈴木彩子、藤井信吾 日本産科婦人科学会誌2009年61巻5号:N145-N150
2) www.kanazawa-med.ac.jp/~general/hiesyo-kanpo.pdf
3) www.harasanshin.or.jp/shared/img/medical/fujinka/shikyu_kinshu.pdf
4) 小西郁生 日本産科婦人科学会誌 2005年57巻9号:N204-206
5) 青木高 他 健康・スポーツの生理学 2005年 建帛社

 <論文>              瘀血と腹部硬結の関係に関する調査と考察
                                                          大杉幸毅
要旨
 瘀血は、東洋医学独特の概念であり、西洋医学にはこのような概念は存在しない。瘀血による症状は多岐にわたり、たとえば、冷え症、肩こり、腰痛、頭痛、めまいあるいは婦人科障害などの自覚症状を訴えて医療機関を訪れても、(器質的)病変が発見されなければ、「気のせいでしょう。どこも悪くありません。」と、軽くあしらわれ病気とみなされない。西洋医学の立場からは、瘀血による愁訴や疾患を理解することは出来ない。そのため、瘀血は、「漢方独自の仮想的病理概念」と捉えられ、停滞し変性した非生理的血液の意とされていた。しかし、現在ではうっ血、末梢の微小循環障害、凝固線溶系の異常など様々な病態の複合した症候群と推定されている。
こういった瘀血の腹症として小腹満、小腹鞭満、小腹急結などの腹部硬結があることが伝えられているが(図1)、これらの正体はよく判っていない。そこで、筆者のグループ(注1)は、腹部硬結観察マニュアル(注2)に従って、腹部所見データを収集し、毎年の症例研究会で検討し、「症例研究誌」に発表してきた。今回、「症例研究誌」第1号から第8号までの症例の腹部所見のデータをすべて調査し、検討を加えてみた。
キーワード 瘀血、腹部硬結
Ⅰ、序文
 筆者のグループが施術している方法である血液循環療法は、指で全身の動脈系および腹部を含めた硬結部を独自の押圧法を施し、末梢循環を促進する手技療法である。患者の腹部をきめ細かく押圧すると、色々な部位に硬結に触れる。例えば、腹大動脈の拍動性硬化、これは正中線よりやや左寄りの臍上から臍下にかけてよく触れる。それに並行するように右側に棒状の無拍動性硬化がある。これは、下大静脈の硬化である。そのような硬化を触れる患者では、臍下に比較的硬い硬結を触れることが多い。そのような症例では、下肢冷感や不定愁訴などの冷え症を自覚する患者が多い。その外、心窩部、回盲部、右腸骨窩にも硬結があることが多い。いったいこれ等の硬結は何であるか?東洋医学で伝えられている瘀血の腹症と関係があるのか?その成因のメカニズムは?疾患や症状とどう関係があるのか?調査結果を踏まえ考察した。
Ⅱ、方法
「症例研究」1号~8号までの症例(腹部所見のあるもの)および腹部硬結観察例とあわせて全92例を対象に、腹部硬化(硬結)の部位(図2)と瘀血、冷え症、証、性別、年齢、疾患などの関係を分類、傾向を調査した。

① 心窩部
② 右季肋部
③ 左季肋部
④ 大動脈
⑤ 下大静脈
⑥ 臍部
⑦ 下腹部
⑧ 回盲部
⑨ 左腸骨窩
⑩(左右)側腹部
図2、腹部硬化の部位(省略)

Ⅲ、結果
1) 全症例92例中すべてに程度の差はあるが、瘀血の症状がみられる。
そのうち臍部硬結は82例(89%)、約9割(以下表1)(以下表省略)
   大動脈硬化は74例(80%)、8割
   下大静脈硬化は63例(68%)、約7割
   心窩部硬化は61例(66%)、約7割
   下腹部硬化は24例(26%) ,約3割
冷え症は59例(64%)、約6割であった。
臍部硬結が見られない10例もその他の部位の腹部硬化(結)が見られる。
2) 臍部硬結がある83例中、冷え症は58例(71%)だった。(表2)
3) 大動脈硬化がある74例中、冷え症は53例(73%)だった。
4) 下大静脈硬化がある63例中、冷え症は47例(75%)だった。
5) 冷え症のある59例中、臍部硬結は59例(100%) (表3)
            大動脈硬化は52例(88%)
           下大静脈硬化は43例(73%)
            心窩部硬化は27例(46%)だった。
その心窩部硬化27例中すべてに大動脈硬化、下大静脈硬化が見られた。そのうち女性25例(93%):男性2例(7%)、陰または虚証25例(93%):陽または実2例(7%)で、重症の慢性病が多かった。
全冷え症例中、女性51例(86%)、男性8例(14%)であった。(表3)
その女性51例の疾患、愁訴は次の通りである。(合併も含める)(表4)
消化器系疾患または障害21例、婦人科系疾患または障害14例、運動器系疾患または障害13例、自律神経系障害8例、循環器系疾患または障害8例、不定愁訴9例、代謝性および内分泌系疾患5例、免疫系疾患6例、腎泌尿器系疾患または障害2例である。内訳は次の通り。
消化器系疾患または障害
 食道裂孔ヘルニア、逆流性食道炎、胃癌、胃ポリープ、慢性胃炎、萎縮性胃炎、胃弱3例、胃痛2例、慢性胃炎、直腸癌、腸ポリープ2例、便秘症4例、脂肪肝、肝機能低下、
婦人科系疾患または障害
子宮筋腫5例、子宮異型細胞、卵巣嚢腫、生理痛3例、生理不順2例、乳癌、子宮摘出
運動器系疾患または障害
 股関節症、RSL、股関節痛、頚椎椎間板ヘルニア、顎関節症2例、斜頸、漿液性膝関節症、腰痛症2例、肩こり2例、坐骨神経痛
自律神経系障害
 偏頭痛(頭痛)6例、自律神経失調症、めまい、
循環器系疾患または障害
 高血圧症2例、心弁膜症、虚血性心疾患、動悸、不整脈、鼠径リンパ節腫脹、膵頭部リンパ節腫脹、
代謝性および内分泌系疾患
 鉄欠乏性貧血3例、腹水、バセドウ病、
免疫系疾患
膠原病、アトピー性皮膚炎2例、アレルギー性皮膚炎、SLE、慢性関節リウマチ
腎泌尿器系疾患または障害
 膀胱炎、乏尿、
6)大動脈硬化74例中
心窩部硬化が共存するもの53例(72%)そのうち臍部硬結48例(90%)、冷え症36例(68%)
心窩部硬化、下大静脈硬化が共存するもの38例(51%)そのうち臍部硬結38例(100%)、冷え症38例(74%)
7)下大静脈硬化63例中
 大動脈硬化が共存するもの59例(94%)そのうち臍部硬結62例(98%)
 (大動脈硬化が伴わないもの4例)
 下大静脈硬化のみ単独で発現するのはわずか1例のみであった。
8)年齢層の傾向は、50歳代が23例(25%)
          40歳代が18例(20%)
          60歳代が14例(15%)であり、中高年齢層が60%を占めていた。(表5)
Ⅳ、考察
1)瘀血の症状があると臍部硬結は9割発現し、大動脈硬化、下大静脈硬化7~8割発現する。臍部硬結が発現していなくても、その他の部位に硬結(大動脈、下大静脈、下腹部など)が発現する。これは、東洋医学で従来からいわれている瘀血の腹症と共通性がある。漢方の瘀血の診断法の一つに、臍傍部の圧痛抵抗を触圧診する方法があるが、これは、大動脈、下大静脈、総腸骨動・静脈の血管硬化を圧診する。血管が硬化していれば、圧痛抵抗が現れる。(図3)従って、小腹鞭満、小腹急結の正体は、臍部硬結であり、これらは総腸骨動静脈の血管の硬化が大きな要素の一つである可能性が高い。
硬化した大動脈を押圧すると、圧痛が動脈を伝って心臓のほうへ響く。アテローム硬化症ではない動脈や静脈の機能的硬化が存在する。これは瘀血による血管硬化ではないだろうか。
2)冷え症(自覚的)の有症率は6割、うち女性が86%である。圧倒的に女性に多い愁訴である。
3)下大静脈硬化があると大動脈も硬化しており(94%)、臍部硬結も98%の高率で存在する。しかし、下大静脈硬化のみ単独で発現しているのは、わずかに1例のみである。
4)臍部硬結または、大動脈硬化、下大静脈硬化があると7割以上に冷え症がある。
5)冷え症があると、臍部硬結が存在する(100%)。これは、以前から「冷え症の人は、お臍の下にシコリがある」と主張してきた筆者の観察と一致する。
6)冷え症のある女性は、消化器系、婦人科系、運動器系、自律神経系、循環器系、免疫系代謝内分泌系、泌尿器系など多岐にわたる疾患、愁訴を持つ。特に、消化器系では胃腸肝臓の機能低下あるいは障害、婦人科系では子宮筋腫、卵巣嚢腫、乳癌、月経障害、運動器系では、肩こり、腰痛、顎関節症、関節痛、自律神経系では偏頭痛、めまい、循環器系では高血圧、心臓病、リンパ障害、代謝・内分泌系では鉄欠乏性貧血、バセドウ病、免疫系では膠原病、アトピー性疾患、腎泌尿器系では膀胱炎、乏尿などである。これは、瘀血(末梢循環障害)が背景に存在することを意味する。
7)冷え症があり、心窩部、大動脈、下大静脈硬化、臍部硬結がある場合は、圧倒的に慢性病が多い。これらは、重症の瘀血であると考えられる。
8)血管硬化のメカニズム
この調査結果は、血管硬化のメカニズムを表している。つまり、先に大動脈が硬化し、続いて下大静脈の硬化が出現するということである。冷えによる血管収縮は動脈に作用し、末梢の循環障害が起こり、次に動脈血のうっ滞、続いて静脈還流が阻害されるのである。
大動脈や大静脈などの太い血管では、壁が厚いため血管壁の組織を栄養する細い血管があり、瘀血が続くと末梢循環障害により、これらの組織に何らかの変性を起し、血管壁が硬化するものと思われる。静脈は動脈に比較すると、流れが緩徐で重力の影響を受けてうっ滞を起し易く、血栓が形成され易い。うっ滞状態が長く続くと血液(血球)が変性し、同様に血管壁の変性をきたすものと思われる。臨床経験からも、大動脈のほうが下大静脈よりも早く軟化しやすい。また、加齢が進むほど軟化に時間がかかる。しかし、臍部硬結が少しでも緩むと、冷え症は改善される。
また体を冷やす飲食物(氷菓、果物、冷たいジュース、アルコール類、夏野菜)の摂取により食道、胃、肝臓が直接冷やされて付近の血管が硬化して血行障害を起こし、またその背側を走行する大動静脈も冷やされ影響を受けるものと思われる。
冷え症が女性に多いのは、月経、妊娠、ホルモンが関係している。また衣服の関係から外部からの冷えを受けやすく、圧迫による血行障害を受けやすいからである。
9)瘀血体質の遺伝性
母子(娘)間で症状、腹部硬結部位に共通性があり、瘀血体質が遺伝するのではないかと思われる症例がある。
その1) 
症例1  母 44歳 
症状、疾患 虚証、肥満、冷え症、鉄欠乏性貧血、胃痛、発疹、昜疲労。
腹部所見 胃部抵抗、特に大動脈との交点圧痛○Ⅱ、肝門部拍動性硬化+2、大動脈・下大静脈硬化圧痛○Ⅱ~○Ⅲ。
症例2  娘 16歳 
症状、疾患 陰証、痩せ、冷え症、胃痛、頭痛、生理痛、肩こり。
腹部所見 大動脈・下大静脈硬化、特に十二指腸部および臍下部硬結(圧痛○Ⅱ、+2)。
この母子では、両者とも冷え症、慢性的に胃痛に悩まされていた。腹部所見は、両者とも、心窩部に圧痛性の硬化があり、大動脈・下大静脈とも圧痛性硬化があった。

その2)
症例3  母44歳 
症状、疾患 陰虚証、肥満、冷え症、肩こり、頭痛、胃痛、背腰痛、不眠症。
腹部所見 心窩部全体硬化、大動脈及び下大静脈上部硬化、臍下部硬結、胃体部圧痛。
症例4  娘20歳 
症状、疾患 陰虚証、冷え症、肩こり、頭痛、胃痛、便秘症、眼部痛。
腹部所見 心窩部全体抵抗、大動脈、下大静脈硬化、臍下部、S字結腸部硬結。
 この母子では、冷え症、肩こり、頭痛、胃痛が共通した症状であった。腹部所見は、心窩部、大動脈、下大静脈部、臍下部の硬化が共通していた。
 このように母子間で腹部硬結部に共通性があり、症状もまた共通性があるのは、瘀血体質が遺伝していることが考えられる。この瘀血体質とは、腹部の血管の硬化の遺伝ではないだろうか。このように、遺伝的素因として若年層から血管の硬化があり、更に生活環境により硬化が進行していくと思われる。若年層では、治療により血管硬化の解消は容易であるが、加齢の進行により軟化させるには治療回数を要するようになる。
10)治療方法は、多岐に現れる不定愁訴に惑わされないで、根本原因である瘀血の解消が鍵である。血液循環療法が各種疾患に効果があるのは、腹部の硬結(特に血管硬化)を解き、全身をくまなく施術して末梢循環を促進し、瘀血を改善するからである。
11)瘀血があらゆる生活習慣病(癌、動脈硬化、高血圧症、高脂血症、糖尿病、痛風など)、慢性病(慢性関節リウマチなどの膠原病、アトピー性疾患、アレルギー性疾患など)の背景にある。そのため、発病しないうちに早めに瘀血の改善や予防のための治療や生活改善が必要である。
(注1) 血液循環療法協会症例研究部会
(注2) 腹部硬結観察マニュアル
 腹部は、いろんな部位に硬結を触診することが多いが、それはいったい何が硬化し、硬化のメカニズムはいったい何であるのか?
それを解明するため、臨床データをできるだけ多く収集する。
1) 腹大動脈、下大静脈を上部(心窩部)、中部(臍上部)、下部(臍下部)に区分し、どの部がどの程度硬化しているか、その時の圧痛はどうかを観察する。
2) その時の他の部位の硬結(硬化)はどうか?
3) 疾患、症状、検査数値、証、体質、体型なども記載する。
4) 加療により硬結、症状などはどのように変化したか観察する。
(参考資料)
硬結の硬度
+1 弾力性があるが硬い 参考圧度 500g~1Kg 
+2 弾力性がなく硬い       1Kg~2Kg
+3 異常に硬い          2Kg以上

実証体 気(エネルギー)が充実している。がっしりして、脈も腹も力がある。
虚証体 気が不足している。やせ、しまりがない、脈も腹も力がない。
陽証体 暑がり、汗かき、活動的、明るい、顔は赤み。
陰証体 寒がり、冷え性、元気がない、暗い、顔は青白い。
瘀血の診断
1) 腹診
腹大動静脈(傍臍部)の硬化、圧痛度 その他の部位の硬結(硬化)
2)舌疹
舌の暗赤紫化、舌裏の静脈怒張
3)その他の所見
口唇、歯肉の暗赤化。顔面、眼輪部の色素沈着。皮下うっ血。細絡(小静脈のうっ血)。手掌紅斑。痔疾。月経障害。
4)LBAによる血液像の所見
赤血球の連鎖状態、変形、弾性度など。
瘀血の症状
肩こり、頭痛、耳鳴、めまい、のぼせ、疲れやすい、根気がない、すぐ眠くなる、腰痛。膝痛など関節痛。神経痛、冷え性、冷房に弱い、気象、季節の変化に体調を崩しやすい、便秘、下痢、婦人科障害、自律神経失調症、などなど、その他別紙予診カード参照。
参考文献
「東洋医学大辞典」
「現代医療が見失った瘀血という病気」岡田耕造

            血液循環療法の治療効果のメカニズムについて
                                            哲科学・技術研究/TAKAO 高尾征治
  血液循環療法は、手技で患部の筋肉をもみほぐし滞った血液の流れを改善することで疾病を治癒する療法だと言われています。
 では、なぜ手技で患部の筋肉をもみほぐすだけで、疾病治癒ができるのでしょうか?それについては以下のような三つの見方があります。
ひとつは、硬くなった患部の筋肉を物理的に柔らかくし血液の通りをよくするという見方です。これは、誰にでも納得のいく現象論的な見方ではないでしょうか。
ふたつは、その際、治療師の手から放射される気のエネルギーが化学的に作用するからだとする見方があります。これは経験的にわかりますがメカニズムが不明です。
みっつは、昔、浪越徳治郎さんがテレビで伝えた「指圧の心 母心、押せば 命の泉わく」という見方があります。これは、「命の泉」とは「気のエネルギー」と同じ意味に考えられ、手技で患部の筋肉を物理的に圧し押すだけでも気のエネルギーがわくと見ています。 
以上の三つは気血動の調和を説く千島学説1)とも結び合っていますが、では、なぜ、筋肉を圧し押すだけで気のエネルギーが湧くのでしょうか?また、気のエネルギーがどのように化学的に作用するのでしょうか?これまでそこが定かではないようです。
私は、この問題を解く鍵を今から17年前にすでに入手していました。1994年2月下旬、日本の代替相補医学の草分けである渥美和彦さん(東大名誉教授)の招請で、新技術事業団主催の異分野研究者交流フォーラム「医療と科学技術(ヒト―生と死の周辺―)」に参加したことがあります。そこで、『見えない機械』2)を著した藤正巌さん(当時、東京大学先端科学技術センター教授)の筋肉の収縮機構についての講演を拝聴しました。そこで、私はATP (アデノシン三燐酸)の分解だけでは横紋筋の収縮に必要な力学的エネルギーの1割しかまかなえず、あとの9割は外部から供給されねばならないが、その説明にはなんらかの量子レベルの情報が必要になるということを初めて知りました。
その大まかなメカニズムについて、私は1996年に出版した拙著『脳内パラダイム革命がもたらす新しい宇宙生命像』3)で「筋肉の収縮がその場を構成する空間を強制的に収縮させることになる。そうすると、あたかもタオルから水が絞り出されるように、高次元空間に配位する後述の高次エネルギー(=気)がレベルダウンして絞りだされてくる」と述べ、気が関係するとの見方を示しておきました。でも、これでは余りにも大まかすぎ、もう少し具体的に説明する必要があります。
 ところで、現代科学は、筋収縮の際ATPが分解するのはATP分解酵素があるからと見ています。しかし、このような酵素はそのエネルギー実体がわからないのでまだ「仮説」段階にとどまっています。例えば、服部千春著『酵素パワーが体質を変える!病気を治す!』4)によれば、卵白を実験室で消化させるには試験管に触媒(塩酸)を加えて加圧して100℃
                         虚光子⇔ゼロ点

                         ⇔実光子、正、反ニュートリノ、

                         電子、陽電子

                         ⇔三つのπ中間子(クォーク対)

                         ⇔中性子(π0、π+、u・d)

                         ⇔陽子(π0、π+、u・u)

                         ⇔水素原子
 
図1 物質世界と精神世界の関係性     図2 螺動ゼロ場情報量子反応式  

の高温にせねばならないが、体内ではトリプシンという酵素の働きにより常温常圧で消化
できるとあります。すなわち、酵素は(高温高圧―常温常圧)分のエネルギーをまかなっていることになりますが、それが何に由来するかがわからないのです。この「仮説」を「法則」にレベルアップするのが科学者の仕事ですが、まだ誰も手つかずの状態です。酵素作用のエネルギーの本質がわかり気のエネルギーとの関係がわかれば、問題は解決することになります。量子水学説の全貌をまとめた拙著『宇宙生命三都物語』5)では、どちらも同じ量子エネルギーと見てよいことが以下のように解き明かされています。 
私がオリジナルに提唱する量子水学説は、物質と精神を統合した弁証法的物神一元論という新しい哲学的礎(図1参照)のもとに体系化された量子水理論のことで、1.現象論、2.実体論、3.本質論の三つからなっています。とくに3.本質論では従来科学が不問に伏してきた酵素触媒作用のエネルギー的本質が明らかにされています。すなわち、それは、酵素触媒のナノ結晶構造やナノ化学構造の形態、その多くはプラトン立体と結びあっていますが、それに波動共鳴してその中心のゼロ点で螺旋状に生滅する量子情報エネルギー(光子、ニュートリノ、電子)(図2参照)であることを突き止めています。
図2に量子水学説の究極の到達理論である虚・実境界域の螺動ゼロ場情報量子反応式を示しています。まず、虚光子がゼロ点を介して質量を持たない実光子と質量を持ったニュートリノ、電子になります。これが、気の量子エネルギー的実体で、千島学説5)に言う「超エネルギー(=気)⇔素粒子⇔原子」を具体的に明らかにしたことになります。というのは、気には陰、陽の二気がありますが、それは量子エネルギーの正、反の二粒子に対応し、ともに螺動ゼロ場で対発生するからです。気功師さんがコップの水に手をかざすと水の電気伝導度があがるあるいは瞑想中の気功師の体内を電気が流れるという事実がありますが、それらはゼロ点で発生する量子エネルギーであるニュートリノや電子に由来して起きているからです。つぎに、こうして生まれた実光子、正、反ニュートリノ、正、反電子から正、反クォーク対が生まれます。さらに、これらクォーク対から中性子が構成され、それに正ニュートリノが作用すると陽子と電子に転換され、同時にそれら陽子と電子が結びついて原子番号が最小の水素原子が生まれることになります。 
この螺動ゼロ場情報量子反応は光が水素原子になる向きにも水素原子が光になる向きにも可逆的に起こります。血液循環療法の手技で筋肉をもみほぐすことは、筋肉を収縮・膨張させ、水素原子⇔素粒子⇔光の量子反応を可逆的に起こし、疾病部位周辺を光の向きに消失させ水素原子の向きに筋肉を蘇生しながら患部を治癒することになります。
最後に、このような気、すなわち情報量子エネルギーは、図1に示すように精神世界の意識エネルギーに由来するので、患者と療法者がお互いに信頼しあい気を合わせること、つまり心の波動を共鳴させる事が治癒効果をあげるのに大切になります。
【引用文献】
1) 千島喜久男:『血液と健康の智恵』、p.361、p.379、地湧社(1998)
2) 藤正 巌:『見えない器械―細胞の構造とマイクロマシン―』、オーム社(1994)
3) 高尾征治:『脳内パラダイム革命がもたらす新しい宇宙生命像』pp.1-326、徳間書店(1996)
4) 服部千春:『酵素パワーが体質を変える!病気を治す!』、主婦の友社(2000)
5) 高尾征治:『宇宙生命三都物語』、pp.1-414、Ecoクリエイティブ(2009)


筆者プロフィール
1943年 福岡生まれ67才。工学博士(九州大学)、名誉哲学博士(イオンド大学)。
1966年 九州大学工学部化学機械工学科卒・研究職就職。
2007年 九州大学大学院化学工学部門 定年退官。
役職:哲科学技術研究/TAKAO 代表、「国際環境政策研究会」副会長、
「内閣府認証 人づくり国づくり財団」学術顧問、技術顧問(社団  
法人ホワイトネット未来号、(有)グリーンライト、㈱コスモ)

 

 

 

 

 

 

         血液循環とシコリと痛み
                                              血液循環療法院・たかお 高尾荘二

 早いもので、定年後血液循環療法士の認定を受け、山梨県甲府市で治療院を始めてから六年目を迎えます。山梨に移ったのは、三十年来続けてきたクライミングを心ゆくまで楽しむためですが、開業後患者さんの体を通して多くの事を勉強させていただきました。そこでつくづくと感じたのは、血液循環療法は、実に理にかなった治療法だということです。
私は元々理科系の出身ということもあり、あらゆる物事に対してその根拠を求めたがる癖がついてしまっています。治療法に関しても、常識的に考えて納得できるものもありますが、多くは生理学、生化学、病理学などの知識を動員しないと正確な説明は得られません。例えば、シコリのできた部位の血液循環が阻害されるのは、筋肉の中にある毛細血管が、シコリとして硬くなった筋肉に押しつぶされて血液の流れが滞るからだと言えば常識的に納得がゆきます。ところが、血液循環が阻害されるとどうして痛みが発生するのかとなると、なかなか簡単には説明できません。自分なりには、虚血性疼痛と同じような説明が可能だと考えます。が、虚血性疼痛というのは現代医学における概念で、医学的知識がないとなかなか理解しづらいものです。
 しかし、世の中すべてが説明のつくものばかりではありません。実際、今世の中にある代替療法の多くは、現代医学で説明し切れない部分を持っています。それらの療法は、これまで多くの人たちによって培われてきた経験の上に成り立っています。長年にわたる多くの経験則を体系化したものなので、あの人には効いたけれどこの人にはダメだったということも珍しくなく、あくまで個別の問題として論じる必要があります。したがって、代替療法は、実際に自分で試して自分の体に訊いてみることが肝要だと思います。
一方、現代医学は、あくまで、自然科学の法則(常に同じ事象が再現できるという規則性)、統計学的根拠(数値化したデータにより統計学的に有意な差が得られること)に基づいた普遍性を前提としています。したがって、現代医学と代替療法とは、根本的なところで相容れない面を持っています。
その中にあって血液循環療法は、かなりの部分までが、現代医学の基盤をなす生理学、解剖学、生化学などの知見によって説明し切れるというのが私の正直な実感です。

虚血性疼痛ということ
 虚血とは、臓器や組織に供給される血液が必要な量に比べて著しく減少した状態のことです。すなわち、局所的に血液循環が阻害されることです。この時に強い痛みを伴うことが多いのですが、これを虚血性疼痛と呼んでいます。心臓に血液を供給する冠動脈が狭窄や閉塞を起こすと心筋虚血となりますが、一過性の心筋虚血は比較的短時間の胸痛を伴います。しかし、虚血が原因で心筋が壊死する状態になり心筋梗塞に至ると、死の恐怖を伴うほどの激しい胸痛に襲われることになります。また、上腸間膜動脈が閉塞した場合には、直後から激しい腹痛に襲われます。閉塞的動脈硬化症では、動脈硬化により下肢に血液を送る動脈が徐々に狭窄・閉塞状態になり、安静時には問題ないのですが歩行を始めて下肢筋肉の酸素消費量が増加すると、脚が痛くて歩行が困難になります。少し休むと治まり、歩くとまた痛くなるという具合です。

虚血(血液循環の阻害)が痛みを引き起こすメカニズム
 虚血すなわち血液循環が阻害された状態では、血液により運搬される赤血球の供給量が低下し、酸素不足を引き起こします。痛みは、この酸素不足によるものです。
酸素不足がなぜ痛みを引き起こすかについて、現時点で最も納得できる説明は、横田敏勝著「臨床医のための痛みのメカニズム」の中にある次の記述です。
 酸素が欠乏すると、局所がアシドーシスに陥る。それに伴って血漿プレカリクレインが活性化され、高分子キニノーゲンからブラジキニンを産生する。アシドーシスがあるとブラジキニンを分解するキニナーゼⅠも阻害され、ブラジキニンが蓄積する。ブラジキニンは強力な発痛物質で、筋肉に分布する痛覚線維を刺激する。
 生化学のバックグラウンドがないと、なかなか読みづらい文章です。ここでブラジキニンとは、血圧調節および炎症発現に関与する化学物質で、血管拡張、毛細血管の透過亢進による浮腫などを起こしますが、強力な発痛物質としても知られています。
体の中で筋肉を動かしたり、代謝での反応を進めたりするエネルギーは、ATP(アデノシン三リン酸)という化学物質として蓄えられています。そして、このATPの多くは各組織の細胞の中にあるミトコンドリアと呼ばれる器官の中でのTCAサイクルおよび電子伝達系の一連の化学反応を経て作られています。この時酸素が必要になります。
しかし、酸素不足になると、TCAサイクルの反応が円滑に進まなくなり、その前の段階でブドウ糖を酸素のない状態で分解してATPを作り出している解糖系(酸素を利用しないこの系でのエネルギー産生量は、酸素がある系に比べて十九分の一に過ぎません)の最後の段階であるピルビン酸で反応が止まってしまいます。そうすると、ピルビン酸は次の段階のTCAサイクルに進めずに、乳酸という酸性物質へと変換されてしまいます。乳酸が増えた部位の血液は酸性側に傾いたいわゆるアシドーシスの状態となります。
 アシドーシスになると血液が酸性側に偏り、血液の中のイオン的な環境が変化します。すると、高分子キニノーゲンと複合体を作っているプレカリクレインがこの複合体から遊離し、酵素としての活性をもったカリクレインに変換されます。このカリクレインが高分子キニノーゲンをブラジキニンへと変化させるのです。
よく、運動で筋肉が疲労して乳酸が溜まると、疲労物質である乳酸が痛みを引き起こすと言われますが、これは説明としては正確ではありません。確かに疲労した筋肉では酸素供給量が追いつかず乳酸が蓄積しますが、乳酸が直接痛みをもたらすのではなく、乳酸によるアシドーシスが発痛物質(ブラジキニンなど)を生成することによって痛みが生じるのです。

血液循環とシコリと痛みとの関係
シコリができるとその場所での血液循環が阻害され、痛みが発現します。また、シコリは血液循環が阻害されたところにもできます。つまり、シコリと血液循環の阻害は、それぞれがお互いの原因でもあるし、結果でもあるのです。ここで共通のキーワードとなるのが、「酸素不足」です。血液循環の阻害が組織における酸素不足をもたらせ、痛みを引き起こします。また、酸素は生命活動の源となるエネルギーを作り出す上で重要な役割を果たしています。筋肉が動くということは、エネルギー源としてのATPを使って筋肉が縮んだり(収縮)、緩んだり(弛緩)することです。ここでポイントとなるのが、筋肉は力を出すために縮む時だけでなく、縮んだ筋肉が緩む時にもATPが必要だということです。したがって、局所的に血液循環が阻害され、その場所で酸素不足が起こると、その部位の筋肉は縮んだまま緩まなくなってしまい、筋肉の硬結をもたらすことになります。これが、血液循環の阻害によるシコリの形成です。
血液循環の阻害がシコリを生成することは、死後硬直のことを考えるとよくわかります。死によって心臓が止まって全身への血液の供給が途絶えると、全身で酸素が枯渇しエネルギーの産生がストップしてしまいます。そうなると収縮した筋肉は弛緩できず、収縮した状態のままとなり硬直し始めます。
 この、血液循環の阻害によってシコリが形成されることを実感したのが、昨年、当時九十歳だった母親が近所の整形外科から帰ってしばらくして、左脚太腿部の痛みを訴え寝たきり状態になってしまった時です。痛む部位を触診すると索状のシコリに触れました。訊いてみると、骨粗しょう症で通院中の医院の待合室で二時間以上も待たされ、硬い長椅子に座っていたということです。おそらくは、(右手に杖を持っていたので)体重がかかっていた左脚大腿部が圧迫されその部分の血流が阻害され、その結果圧迫部分の筋肉が収縮しっぱなしになり、索状のシコリとなったのだと思われます。この索状のシコリをほぼ毎日二、三十分ずつ押圧しましたが、痛みがとれ、歩行訓練を始められるようになるまで一か月半ほどかかりました。
 
まとめ
 血液循環とシコリと痛みの関係を考えてみると、一旦できたシコリを放置したままにすると、血液循環の阻害、それに伴う酸素不足が重なり、酸素不足による収縮しっぱなしの筋肉(筋硬結)が増大し、シコリの拡大、深部への浸透をおし進め、さらに痛みを増幅させるという悪循環に陥ることがよくわかります。
また、高齢になり全身の代謝能が落ち、エネルギー産生量も低下した人では、若い人に比べてシコリ(収縮しっぱなしの筋肉)がなかなか緩みにくく施術日数も長引くという、我々が日常の施術でよく経験する現象も抵抗なく理解できます。

     驚異的な結果を出す膝押圧に関して、現代医療に限界を感じた医師として考えてみた 

             ―究極の手技・血液循環療法との出合い―
                                             あうん健康庵 庵主 小松健治
 私は二十二年間勤めた日赤病院を辞めて開院したのは、一九九八(平成十)年のこと。心地よく心と体をほどく自然医療を探求中、機が熟するごとく出合ったのが血液循環療法です。二〇〇二(平成十四)年、第三祖・大杉幸毅先生に師事し、押圧療法によって、さまざまな病気が次々と良くなっていく様を目の辺りにした私は、「ジワー・パッ」の技は本物だと確信しました。
 押圧療法に精進して二年目のある日、椅子に座ったままうたた寝をした私は二の腕を二時間ほど圧迫、目が覚めると手に全く力が入らなくなり、ダランと垂れ下がったお化け手の橈骨神経マヒ(解剖学でワシにうるなよ―鷲手は尺骨神経マヒ―お化け手のラジオ―下垂手は橈骨神経マヒ―と覚えた)を起こしたのです。通常、橈骨神経マヒは、回復までに約八週間かかるとされ、腕を固定してマッサージするなど保存療法を行うのが一般的。私は早速押圧療法を試みました。
 最初は、前腕にあった長い棒状のしこりを中心に押圧。第四日目の押圧で二の腕にアズキ大のいやーな痛みを感じるしこりに触れ、これをていねいに押圧しました。すると発痛七日後には、手指や腕を動かせるようになり、更に七日後には、字を書いたり細かな指作業ができるようになりました。現代医療で治療する場合の、実に四分の一の短期間で治ったことになります。
 いつでもどこでも何の器具もいらない押圧療法は、究極の手技療法だと身をもって実感したのです。

<乱用される画像診断の落とし穴に、読者自ら陥らない>
 『腰痛はアタマで治す「姿勢のクセ」がわかれば、腰痛の再発は防げる!』伊藤和磨著・集英社新書から引用します。
『構造的診断(画像所見)の限界                     
  器量・構造的な問題にフォーカスを絞った診断を構造的診断と言います。その基本は、
「痛みの原因は関節や椎間板などの器質・構造的な変形や破綻にある」という考え方です。今日までの多くの医者や治療者たちは、この構造的診断に基づいて腰痛症の治療を行ってきました。現在も、腰痛の原因は椎間板ヘルニアだとする医者が多くいますが、こうした風潮を「ヘルニア神話」と揶揄する専門家もいます。診察ではレントゲンやMRIなどの画像検査が多用され、診断の根拠は画像所見に依存してきた傾向があります。そして、診断の裏付けを強化するための触診など手を用いた検査を実施しないまま、構造的な問題にだけ注意を払い、椎間板に変性やヘルニアがあれば、「これが痛み(痺れ)の原因です」といった具合に、断定的な口調で診断名を告げてきました。
しかし、近年、多くの研究機関の調査によって、構造的な問題と腰痛症の相関性は低いことが明らかになり、構造的診断に偏り過ぎた診療スタイルを見直す動きが、急速に高まっています。
画像検査で問題が見つかっても全く自覚症状がないケースもあれば、関節や椎間板に変形はないのに、日常生活に支障が出るほどのひどい痛みなどを訴える人もいるのです。
また、定期的に画像検査を受けている人は滅多にいないので、構造的な破綻が生じた時期と症状が発生した時期を特定するこことは困難だと言えます。だから、仮に画像所見で椎間板や関節に変形が認められたとしても、それが、症状の原因だと言い切ることはできないのです。』
真にこの指摘は的を得ています。わかさ出版『夢21』6月号記事にも、「郡市部や山村部の住民約三千人を対象に、膝などの関節症の有病率をX線検査したところ、50歳以上の男性の44.6%、女性の66%に、変形性膝関節変化が見られた。」と東京大学22世紀医療センターの吉村典子氏の調査報告がのっています。また厚生労働省が行った調査では、わが国の40歳以上の5人に1人が膝痛を抱えていることが判っています。膝痛を初め、首のこり・肩痛・腰痛などの患者さんが医療機関にあふれかえっている現状は、何か変と感じませんか。「もう年だから、一生上手につき合いなさい」という言葉をうのみにしていませんか。読者のみなさん、アンテナの架け替えをしてみませんか。

<新血液理論と新血液・リンパ液循環理論で、押圧治療効果を検証してみる> 
 血液循環療法原理を私は、『全身をくまなく巡る「氣」(私は人の生命を育む食物、主食のお米が込められている氣を意識し、十=神の抜け出した気は病んだものとして区別しています)と、食べた物が小腸絨毛で造られる「血」と、動物に欠かせない構造物筋肉とこれに続く靭帯・全関節の「動」に働きかけ、もろもろの原因で出来上がったしこりをほどくことにある』と達観しています。
 大宇宙に対し、小宇宙である私達は、複雑系・開放系の存在として、定められた生命をまっとうしています。この宇宙レベルの新しい循環論について、少々専門的になりますが、出来るだけ簡単に説明していきます。
 教科書的には体液の循環は、脈管系という、東京山手線内廻り・外廻りの線路上をグルグル回る電車の走行と同じで、一定量の血液が、偉大なるポンプ役の心臓から休みなく圧出され、また戻ってくる閉鎖系循環説です。この際、各駅に停車し、乗降する客(血球)の動向は、細胞再生に不可欠な物質の運搬役ぐらいにしかとらえていないのです。この常識に反証したのが、一九三五(昭和十)年東京帝大動物学科在学中、弱冠24歳の多田政一氏(一九一一~一九九八)が著した「綜統医学提唱論」の中の「血液循環学の新全体論」です。次には古くからの言伝え「食べたものが血となり、血は肉となる(骨となる)」通りの事実を、生きた動物の血管と血液との関係がどのようになっているのか、おびただしい数の組織標本などを用いて顕微鏡観察を積み重ねた結果構築されたのが、既成の生命医学定説に対して千島喜久男博士(1899~1978)の新血液理論です。両者共に毛細血管網レベルでは、一層の内皮細胞から成ることごとく異端の説、特に血液中の血球成分の99.9%を占めている赤血球の働きを中心に、コペルニクス的転回で「革新の生命と医学の八大原理」を提唱しました。毛細血管・毛細リンパ管は開放系となっており、定説で認める白血球の血管外遊先のみならず、赤血球・リンパ球共に毛細管開放端から流出し、それぞれが組織に接して、酸素や栄養物や老廃物一切の運搬のみならず、赤血球の一部は集まって、融け合って、変化(分化)して核のある白血球・リンパ球に格上げされて、近隣する細胞にまで変化(分化)する。この様に動脈と静脈のそれぞれの末端部の毛細血管レベルで、実は生命の根幹にかかわる循環が展開―このもっとダイナミックな生命活部は、もっとも微細な、しかも複雑開放系の領域で繰り広げられている―これには目からウロコが落ちます。千島博士は、この限界領域での循環を組織化循環と称しました。例えるなら、混沌としたコンコースを行く人々の群れが、やがては目的とした電車内や飛行機座席へと収まりがつく様と相似象なのです。
 17世紀初めに、ハ―ヴェ―によって初めて身体の全血液は、心臓から動脈に流れ出し、静脈を通って心臓に戻り、絶えず一つの循環系を巡っていることが発表されたのですけれども、ハ―ヴェ―は、一日中送り出され、送り返されてくる血液の総量は著しく多量なため、これは食物により得られるのではなく、常に同一の血液が一定量巡っているとしたのです。その後、毛細血管系が顕微鏡で明らかにされますが、現代医学はハ―ヴェ―に植えつけられた固定観念に縛られたまま一歩も進歩していないのです。
 千島博士は、体内を巡る血液は、腸管で消化された食物をもとに、小腸の、ちょうど植物の根元に当たる絨毛で赤血球や脂肪の乳縻(にゅう び)となり、毛細血管や毛細リンパ管を経て、循環血液中に取り入れられている事実を科学的に証明しました。おなかの小腸が血液のサプライセンターなのです。
 以上の事実を知った上で、血液循環療法の整合性をあげていくと、血液循環療法独自の「腹部治療」は、循環する血液製造元と、貯蔵倉庫的な貯血器の肝臓・腎臓・脾臓・血液原材料の食物の消化器管・胃・膵・十二指腸・廃棄ゴミ処理係の大腸・尿路系への押圧であります。そして、頭のてっぺんから手足の指先まで、動脈血管走行を意識しての「ジワ―・パッ」の繰り返しは、単に血流・リンパ流停滞改善にとどまらず、限界領域の各末梢組織細胞のすきまに、毛細血管・リンパ管から流れ出た赤血球や白血球・リンパ球のみならず、あたかも海にそそぐ川から流れ出て、海岸線に漂着した無数のゴミのごとく存在する、細胞の新陳代謝の副産物という数々、大小の垢(プラ―ク)の類(私が通常診療で実施している一滴の生血液細胞栄養分析法によれば、前記の所見は病気のあるいは未病での個人差が著しい。)が、押圧治療により、整理整頓、酵素作用や微生物による清掃作業を手助けし、体のもつ本来の自然治癒力をよみがえらせ、細胞新生(若返り)がスムーズになると推察されます。これは複雑開放系で、完璧な構造を有する身体のおかげなのです。
 膝痛の原因は、膝周辺の血流不足により、膝関節を支える筋肉やこれを包む筋膜、腱(筋肉を骨に結合する組織)、靭帯(骨と骨をつなぐ丈夫な組織)、関節を覆う関節包と滑膜、骨を包む骨膜に生じたしこりです。特に、あまりに痛みを感じない筋肉よりも、コラーゲンからなる筋膜、関節包線維膜・靭帯・骨膜と連なる部分に神経が密であり、痛みに過敏なため硬く縮み、膝関節可動域を制限します。
 そこで、膝押圧で血流・リンパ流を促してしこりをほぐせば、痛みが解消します。硬く収縮していた筋膜や靭帯、さらには関節包・骨膜なども本来の柔軟性を取り戻すため、膝の可動域も広がると考えられます。
 身から出たサビを張本人自ら手当てする、医療の原点回帰を成しとげているのが、血液循環療法・押圧療法であり、変形O脚化著しい膝関節症に対しても、「ご免なさい。許してね。いつも支えてくれてありがとう」と、氣を入れて、素直に熱心に根氣よく治療すれば、体細胞は喜んで反応してくれるものと考えています。

プロフィール
島根県江津市在住。医師。あうん健康庵庵主。元益田日赤病院胸部外科部長。千島学説研究会副代表。血液循環療法協会メディカルアドバイザー。生命と医学の8大原理変革を唱えた千島学説を応用した、本来あるべき医療の展開と学説の検証に励んでいる。主論文「バクテリアの自然発生像を観察して」(日本医学会報創刊号に収載)
著書 「オルゴン療法に目覚めた医師たち」(共著)