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関空で奈落の底から自力で這いあがる

奈落の底から窮地を脱した、まるでジェットコースターのような旅行記

学生の時に初めていった外国、しかも初めての外航実習船で何か月も航海してやっと到着した熱帯の楽園―南太平洋タヒチ、あれから46年、ズーッと再訪したいと思って長年温めてきた夢、それがやっと実現する時が来た。1年前からA航空会社の特典航空券を予約し、タヒチのホテルと1週間のクルーズとモーレア島の水上コテッジを予約し、帰りはオークランドのホテルを予約し、早めの冬休みを取ってついにその日が来た。1217日関西空港午前925分発中国国際航空便、上海とオークランドでニュージーランド航空便に乗り継ぎパペーテ(タヒチ島)まで行くため、朝6時のリムジンバスで伊丹空港を出発し7時過ぎに関空に到着。中国国際航空は南ウイング発着なので発券カウンターは北ウイングのA社ではなく南ウイングのJ航空会社の窓口が担当する。Eチケットを出したら

「ニュージーランド経由ですね。ニュージーランドの電子ビザは取得されていますか?」

「え!必要なのですか?」

「電子ビザがないと入国できないので発券できません。」

「発券できません」という言葉がグサッと来た。まさか?

「え!そんな!知らなかった。」

10月から必要になったのです。乗り継ぎでも電子ビザは必要です。」

1年前に航空券を予約したので、その時は必要なかったのだ。

「どうしたらいいのだ。何とかならないのか。今からでも申請できないのか?」

「今ここでスマホから申請できますが、申請しても許可が出るまで72時間以内となっています。上海経由なので上海までは行けますが、上海まで3時間の行程なので、上海まで行っても許可がまだ出てなかったら上海で発券できません。」と来た。これぞ、まさに楽しいはずの旅行を目の前にして、奈落の底に突き落とされた感じだった。

そのやり取りを傍らで聞いていた妻はすぐにスマホを取り出し、「やってみるしかないでしょう。」と言って必死の形相で電子ビザの申請手続きをやりだした。

「そんな冒険を冒すより電子ビザの許可が下りてからもう一度航空券を取り直してはいかがですか。」と来た。「今早朝なので窓口は空いていませんが、もう少したってから予約した航空会社にお問い合わせされたらどうですか。」などとこちらの気持ちも知らないでのんきな事を言う。

「無理して上海まで行っても電子ビザの申請が許可になっていなければ、またチケットを取り直して日本に帰るしかないですよ。今どうするかここで決めてください。」

実は、1年前に予約する時、クリスマス休暇の時期なので、直行便は満席で取れず、乗り継ぎのこの便がやっと取れたのだった。もう運を天に任せてやってみるしかないのだ。そのやり取りを聞いていた妻はスマホを握りしめたまま意識が遠のきその場に倒れてしまった。

数名の地上係員たちがワーと駆け寄ってきて

「大丈夫ですか?救急車を呼びますか?」

たぶんショックで脳貧血を起こしたのだろう、と思った。

「いえ、大丈夫です。脳貧血だと思いますから横にでもなればすぐに回復すると思います。」

と断った。今救急車で病院に搬送されたら出発が迫っている飛行機に乗れない。乗れないと全ての旅行計画が水の泡になる。係員が椅子を持ってきてくれたので座って休んだが、妻は何時までも青い顔をしていて元気がない。今度は

「健康状態が悪いと搭乗許可が出ませんよ。」

と来た。

「では私が治療します。ソファーはありませんか?」

「お医者さんですか?」「まあ、そうです。」

「ここにはソファーはありませんよ。」

見まわしたがカウンター付近にソファーはない。仕方ないのでカウンターの前の床に妻を寝かせてお腹の治療を始めた。心窩部は硬くなかったが左寄り胃の下部に球状のシコリを触れ圧痛があった。「これだな」と思った。そこでこのシコリを集中的に治療した。5分くらい施術すると柔らかくなり、血色も良くなって表情に精気が戻った。もう大丈夫だ。妻も気分がよくなり元気になった。こちらの必死で行くしかないとの雰囲気を察してか上海までの航空券は用意してくれた。しかし、別の係員が、回復したのが信じられなくて、

「健康状態が良くないと飛行機に乗れませんから、機長と話し合って頂きます。」

「私がついているから大丈夫です。」「医師免許はお持ちですか?」「そんなもの待ってないよ。」

と言って代わりに名刺を渡した。搭乗口まで行ったら呼び出されて

「機長が来ますからここでお待ちください。」とすべての乗客が乗るまで待たされた。しかし、結局機長は来ず、搭乗出来た。たぶん、名刺を見てOKになったのではないか。

それには肩書に英語と併記で「血液循環療法協会会長」と表記していた。

無事、上海に到着し、緊張した面持ちで心配しながらニュージーランド航空の発券カウンターに行きEチケットを出すと係員は電子ビザの事は一切聞かないでいとも簡単に発券してくれた。

「え!日本と違う!日本みたいにうるさく言われないではないか。海外では対応が違う。」

オークランド空港でのトランジットの時にもパスポートやビザのチェックは一切なかった。いよいよニュージーランドに入国する帰りのパペーテで、ニュージーランド航空の発券カウンターでも電子ビザの事は一切聞かれずEチケットの提示だけでスムースに発券された。日本だけが規則にうるさく厳しかったのだ。係員が悪く言えば公務員的杓子定規で融通が利かない。もっと乗客の立場に立ってサポートすべきではないのか。窮地に置かれた乗客を手助けするのも航空会社の仕事のうちではないか。しかも、昨年マイル修業してA社の上級会員(ダイアモンド)になっていたが、航空会社が違うとこうも冷たくあしらわれるのかと勘ぐってしまう。お蔭さまでとんでもないスリリングなジェットコースタ―のような旅行になった。しかし、そんな目にあいながらも難を切り抜けて無事旅行が出来たのも「血液循環療法」を身につけていたお蔭である。

血液循環療法を知らないほとんどの方は、通常あのような状況だと救急搬送されて、夢にまで見た南太平洋クルーズ旅行は全てオジャンになったに違いない。

イザというとき助かるのがこの療法だ!あらためて感謝!!